作成者別アーカイブ: 冨永章

走りながら考えるときでも成算をもちたい

人生で使える時間は限られています。そのことを強く意識するのは、中年以後という場合が多いかもしれません。実際私もそうでした。加えて、時代の変化として気づくのは繁忙感が次第に増すという現象です。

年齢による生理学的変化も一因でしょうが、かつてdog yearなる言葉が生まれたように、世の中の変化が実際に速くなっていることも明確な要因でしょう。そこで、Agile PMが適するプロジェクトもあれば、要件を早く固定することが難しいプロジェクトも増えるわけです。

「走りながら考えよ」という言い方にも一理あるといえましょう。ところが、走りながら考えるのは着手が早く進み方が速いと本人が感じても、実際には完了までの時間が長くかかることが多いのに気付いています。To do項目の実行に要した時間を記録するのが私の長年の習慣となっていますので、それがとくに気になっています。

対象にもよるでしょうが、実際、設計なしにプログラムを書くと早くできるように感じても、結果として完了が遅いことが多いものです。ごく最近、設計なしに電子工作をやり、そのありふれた教訓を今更ながらいやというほど味わいました。

同時に、プロジェクトには成算(prospect, self-efficacy)が必要であると思います。たとえ可能性が小さくとも、そういう筋道が全くないならば、ラッキーなときだけ成功ということになりかねません。成算は設計図を書かせる動機づけだと思います。そのような教訓をまとめたいわけです。「生活の知恵」としての教訓も色々ありますが、個人プロジェクトの体系だった知恵にまとめる、つまり構造を伴った形式知とすることが人の役にたつと考えています。そのために私たちはパーソナルPMを体系化する努力をしています。

知恵を人が使える形式知にするには、特定の体系(BOK)や目次に収容する必要があります。PMではそれがPMBOK、ICB(IPMA Competence Baseline)、Prince2、ISO21500、あるいはIPMA傘下の各国PM団体がもつNCB(National Competence Baseline)などです。

個人の領域では、18世紀にはベンジャミン・フランクリンの13徳があり、その後は例えばジェームス・アレンの原因と結果の法則をはじめとする成功哲学や、現代のミクロ組織論に至るまで、様々な知恵が存在します。個人向けの自己啓発や成功哲学の中には、仮説や主張と考えるべきものも見当たります。

モダンPMで重要な点は、多くの実践の積み重ねから集約されたプロジェクトの知恵であることだと思います。そこが主張や仮説とは一線を画すると思います。私たちがパーソナルPMをモダンPMの一領域である形式知として確立したい理由はそこにあります。これを人生の限られた時間で作るのにチャレンジをしているわけです。

©2015 Akira Tominaga. All rights reserved.

自信は人から与えられ人に与えるもの?

「セルフイメージ」とは自分をどんな人間と思い込むかということだと思います。もし悪い固定観念があれば、それが改善されることが成長の条件であると、会社の人事研修で聞いた覚えがあります。「自信」もその「セルフイメージ」の中に含まれる部分が多いように思われます。

6月と12月に千葉県の老舗の海苔屋からとても美味しい乾海苔が毎年送られてきます。ある出来事以来ずっと続いています。途中で何度かお断りをしてみたのですが、変わらず続いているので、たいへん有難くいただいています。ここで、その経緯をお話します。

40代前半のとき、私は営業所長に任命されました。プロジェクトリーダーで技術者だった私には、いちばん厭な管理職だったのですが、会社の命令であり断るのは無駄な抵抗だとわかりました。

しばらくたったある時、寡黙で仕事熱心な若手セールスマンが、家業を継ぐという理由で辞表を出したと伝えられました。若手のホープとして私は大いに期待していた社員なのでとても驚き慌てました。他の社員に聞くと、どうやら私の配下の課長が何かにつけ彼をひどく叱責し、本人が自信をなくしたというのも一因のようです。たいへんなことになりました。

その社員の自宅へ駆けつけ本人に会い話を聞きました。そしてお店で働いていた親父さん(社長)を呼んでもらいました。この社員がいかに有能な人材で、会社がいかに期待しているかということを、具体例を挙げて全力で親父さんに説明しました。そして家業を継ぐのは20年ぐらい待って欲しいと懇願しました。

親父さんは考え込んだあと、重い口を開きました。「倅が会社にそんなに期待されていたとはつゆ知らず、たいへん申し訳なかった。それを聞いてとても嬉しい。だが先週決めてしまったことで、残念だがもう取り返しがつかない。」 実に残念なことです!社員は私の隣で涙を流していました。

見込んだ社員を引き戻したい一心で行ったことが、彼に大きな自信を取り戻させたことは、鈍感な私にもすぐにわかりました。数年後、その老舗で働いていた彼の結婚式に招かれ祝詞を述べました。その後お子様が誕生しすくすく育っているという手紙をもらい自分のことのように嬉しくなりました。その後彼は船橋のその大きな老舗を継ぎました。それ以来海苔を送ってくれているのです。

これだけですとなんの変哲もない話になるかもしれません。しかし、一般管理職に全く自信のなかった私が、部下に自信をもたせることができたのに気付いたのです。このことが逆に、自分の固定観念となっていた管理職としてのセルフイメージを変えたのに気づいたわけで、一般管理職に少し自信がつくきっかけになった出来事でした。

つまり、自信が持てたことに感謝すべき側は、こちらでもあったわけです。人に自信を与えることで、自分に自信がつくという大事な事実に気づきました。それからは、不器用ながらも人に自信をもたせることを時々考えるようになり、相互に自信を増す現象があることに確信をもちました。そこをLessons Learnedとして伝えたいわけでした。もちろん自信の種類によることかもしれません。ご意見をお待ちします。

セルフイメージがいかに他人に影響されやすいものであるかという一例でもあると思います。加えて、他人に影響されて固定観念となってしまっている自分自身の悪いセルフイメージは、払拭できるということの証しでもあります。ごく最近になって、Wayne Dyersという人の書籍に出会い、そのことを改めて思い出した次第です。

©2015 Akira Tominaga. All rights reserved.

くそ忙しいのにどうして旅行なんかできるの?

私は短くとも半年以上先までの日程表を携帯します。というと、「手帳をもてば当たり前では?」という方もおられます。しかし年末で区切ることもなく、わかっている限り先の方までの予定を書いて持っているという意味です。それがなぜ役立つのかをここで説明したいと思います。

その昔、世の中にSEがあまりいなかった頃ですが、東北へ赴任しだんだん忙しくなりました。大小16件ほどのお客様を常時担当する羽目になりました。良く言えば引っ張りだこ、悪く言えば過重労働、人からワーカホリックと言われたりしました。仕事ですから仕方がないのですが、土日も潰れることが多くなりました。そういう状態ではどうすれば自分の時間が作れるかが一番の課題であることは、どなたにもご経験がおありでしょう。

担当地域が広いので主に夜行列車で動く毎日でした。がらがらの車内で仕事をするほかに、時間を作る方法も色々と考案していました。今ならGTD(Getting things done)や段取りのハウツー本もあるし、Webでも有益な情報に事欠きません。しかし当時気づいた参考書は、二宮尊徳、フランクリン、新井白石等々の伝記程度でした(私の場合だけかもしれませんが)。とにかく自分で色々工夫を加えなければいけません。

私がたどり着いた一番良い解答は、簡単に言うと誤解を招きそうではありますが、お客様の優秀な人達をどう「使い」まくり、達成感をもってもらうかでした。そのことは別途書くとして、ほかに上位に位置づけられた解答が、「先の方までの日程を書いて持つ」ことです。それを始めてから、その後ずっとですが、今でもその習慣がたいへん役に立っています。

当時他人から見た仕事バカは、当然ながらますます忙しくなり、その後マネジメントの仕事が増えました。しかし一番忙しい時も家族旅行を欠かした年はありません。どうしたのかといえば、日程表に仕事と同様に早くから旅行の予定を入れて死守するわけです。上司や周囲にもそこはダメと早くから言うわけです。なんだ、そんな単純な解答かと思われるでしょう。しかしこれには色々な余禄があるのです。

第一に、先の方の仕事を明確にしておくことで、自分がさらにこなせる仕事量が分りやすく、できない約束をせずに済むこと。第二に、先の方の仕事が明確ならそれにちょっとでも手を付けておけること。とくに意識しなくとも、早くから内容をどうするか少しずつ考えていることです。また、わずかでも着手をしておくことは、後でその仕事に取り組む際の動機づけになります。何でも手を動かすことで初めて興味が湧くものですから。第三には、行動全体が計画的になり、無駄が少なくなる事です。ちょうどプロジェクトがプログラムを構成する一部分であったり、目標が目的のマイルストーンであったりするのとよく似ています。

つまり、できるだけ先の予定まで書いて持つことは、仕事をうまくこなすための良い助けとなるだけでなく、自分の時間を作るための武器にもなるというわけです。

©2015 Akira Tominaga. All rights reserved.

パーソナルPMのフレームワーク

パーソナルPMのフレームワークを下に掲載してみます(あれ、画像がちょっとボケますかね。画像をクリックしていただくと鮮明なのが出ます)。

私は、その昔自分のTo-doリスト項目が完了した時に、気づいたことを項目の右にちょこっとメモするのが習慣になりました。自分用なので一言だけなのですが。数年やっていると、同じ気づきが何度も出るのがわかりました。同じことを何度も書かないようカテゴリー化しまして、自分専用のチェックリストの目次にしたつもりでした。つまりこの表の「活動」の右側には、私の場合いろんなLLが自分専用のひとことで色々溜まっています。それを他の人が分るように今後書きたいと思っています。

そういうわけで、パーソナルPMのフレームワークはこう分けなければならないというわけではなく、自分用に10年続けた結果がこうなったというものですから、人によって異なることがあって当然かもしれません。たまたまそれを5年前にフレームワーク例として、現在のパーソナルPMコミュニティの皆さんに提案した結果、次のような表に落ち着いてきたものです。今回皆さんがたくさん投稿される内容によっては、必要があればこのフレームワークも更新したいと考えています。

この表にある「知識」の内容は、組織用のPMと重なるものがありますが、個人のPM独特の内容もあります。これをどういう風に見て使うとよいかについては、今後どこかでまた書くとして、色々ご想像いただくとよいと思います。色んな知恵を溜めたり参照したりするには、何か目次があると便利ですね。BOKと呼ばれるものも同じような理屈があるわけすが。まずはとにかく掲載まで。

パーソナルPMのフレームワーク

お客様のトップと良い関係を作るには借りを作る?

プロジェクトリーダーのメンタリングを行う機会が時々あります。そこではPM(プロジェクトマネジメント)の知恵に加え、スポンサーとの良い関係をどう作るかについて、自分のLL(Lessons Learned)を持ち出して参加者に考えてもらうことが多くなりました。過去にお客様と接する第一線の仕事を長年やっていましたので、そこでいろんな知恵をいただき、自分なりに咀嚼してきましたが人に披露するような機会はあまりないものでした。

ところが複数の大学院でPMを教えるようになると、ステークホルダー・マネジメントの経験談をたくさん聞きたいというフィードバックが多いのに気付きました。そこでそういう知恵をネタにいれることがだんだん増えて来ました。もちろんやりすぎると、「年寄りの自慢話」として嫌われることは間違いないですから、ほどほどにはしています。そういう中から「顧客へのペネトレーション」、とくにお客様の上層部をどうやって味方につけるかという点のLessons Learnedです。

SE時代に色んなお客様のシステム構築プロジェクトをやっていました。相当昔ですし地方でしたから、SEは珍しいしお客様チームの中のリーダー的存在でした。しかし、一介の若僧の言うことが、お客様の中の関連部門長などに簡単に受け入れてもらえるわけではありません。もし聞いてもらえないとプロジェクトが失敗するというような場面も何度も起きます。そこで、お客様のキーマンやトップを味方につける必要がどうしてもあったものです。

そしてお客様トップとの定期的会合をどこでもお願いするようになりました。そんな機会で某社にお伺いしたある日のこと、K社長が「今日は相談があるのでお酒でも」とのこと。社長車でフグ料理屋につれていかれました。地元の名士ですから料理屋のご主人の対応はこの上なく丁寧です。トイレをお借りしご主人に「大ごちそうになりどうしたものか」と聞いたら、即座に耳打ちしてくれました。「お客さんは若いのだから偉い人には素直にごちそうになるもので、決して払ってはいけません。借りを返すような良いお仕事をしてください」。

そう言われて気付きました。当然ながら20代の若僧がお支払できるようなお店ではありません。借りを作ったのですが、K社長には「貸しは仕事で返してくれる相手だろう」という期待があるのです。期待に応えられるように頑張っていると、その後K社長に奢られる機会はどんどん増えました。それにしたがって、組織では自然な現象ですが、お客様の上層部の方々の多くが私の意見に従ってくれるようになったのです。

このことは他のお客様でも同じです。社長に限らずお客様の目上の方と接する場合には、そのような借りを作ることです。地方赴任から戻り大企業を担当した際でも同じことが起きました。この原理は、時代を経ても他の国であっても同じだと思います。割り勘などしてはいけません。若い人たちにこれを得意になって話したその夜のこと、私はすっかり奢らされてしまいました。

パーソナルPM忍法帖

「パーソナル・プロジェクトマネジメント」は個人のプロジェクトマネジメントのこと。日本生まれで2005年ぐらいからまとめられてきて、その知識を整理するパーソナルPMフレームワークも整ってきました。普通のPMでいえば知識体系の目次。このBlogでもそのうちにご紹介したいと思いますが、お急ぎの方の参考書は日経BP社の「パーソナルプロジェクトマネジメント」です。

パーソナルプロジェクトマネジメントの研究は日本で2004年以前から始まり、個別の情報発信が始まりました。2007年4月には「パーソナルPM研究会」がPM学会内に作られ、継続的な追究が開始され研究が加速されました。そして2014年5月には、ご関心をもたれた関係各位のご努力により、自由な追究・実践のための「パーソナルPMコミュニティ」が学会外に誕生しました。いっぽうパーソナルPM研究会の2016年3月完了に伴い、以後この開かれたコミュニティ活動(参照:PPMcommunity-TsCs-01)へと活動が統合され、現在に至っています。つまり「分身の術」と「合体の術」を重ねたものです。

本ブログはワールドクラフト様のお世話になりながら掲載させていただいています。当面はLessons learned(教訓)をメンバーが忍法のようにあれこれ書いて行く筈です。ご関心をお持ちの方のお役に立つように、一同頑張りたいと思います。・・と述べる筆者本人は、ゆっくりのペースで書くことになると思います。事情で暫らくの間、時間が拘束されているためですが。しかしそういうことは理由になりにくいものですね(^_^: 書いてしまってから反省しきりです。

2015.3.6

(c)2015 Akira Tominaga, All rights reserved.