数十年前、新卒で某大手コンピュータメーカーに入社した僕は、研修後、お客様担当のSEとして社会人生活を始めた。当時、指導を受けていた直属の先輩SEは優秀、かつ仕事に妥協を許さないタイプで、本当に厳しく、何度も叱られ、スパルタ教育を受けた。研修での成績が良かったので、期待もしていたのだと思う。ただ、僕は、学生から社会人へとマインドセットを変えることがなかなかできず、何年もの間、満足できる業務上の成果を上げることができないでいた。それでも、次から次へとやるべきことは降ってくる。To Doの山に埋もれながら、その先輩SEと自分を比べて、「自分は本当はできない人間なんじゃないか」という懐疑心にさいなまれ、不安と苛立ちの中、日々の仕事を何とかこなしていた。
深夜まで仕事をすることも多かったが、そういった時、隣の先輩SEがよく、「川﨑、淡々とやるんだ。泣こうが、わめこうが、やることは変わらないだろ。だから、感情を動かさないで淡々とやるんだ」と話しかけてきた。しかし、当時の僕はその言葉を聞いて、「淡々と仕事できないのは、あなたのせいでもあるだろ」くらいの気持ちしか湧いてはこなかった。
そうこうしている内にやっと仕事にも慣れ、自分なりの成果の上げ方も分かってきたが、留学を契機に会社を辞めた僕は今、中小企業の経営者として働いている。その中で、デスマーチプロジェクトで苦しんだ時、資金繰りに窮して天を仰いだ時、大事な打合せを前にした時、「淡々とやるんだ」という先輩SEの言葉をふと思い出していた。言われたその時は分からないけれども、後になって思い出し、自分を支える言葉があることを知った。感情を乱してもやるべきことは変わらない。だとしたら今できることに集中する。そして自分ではコントロールできないことは天にゆだねる。そういった思いを胸に、仕事も私事も当たっていこう。そう決意する礎になった大切な言葉となった。
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良い経験でしたね。私も駆け出しの時、先輩から似た教え(しごき?)をうけました。孤独な出張続きの東北時代にいろんな窮地がありその度に思い出して淡々と、実はなんとかやり過ごせました^^。すっかり忘れてたのですが。