お客様のトップと良い関係を作るには借りを作る?

プロジェクトリーダーのメンタリングを行う機会が時々あります。そこではPM(プロジェクトマネジメント)の知恵に加え、スポンサーとの良い関係をどう作るかについて、自分のLL(Lessons Learned)を持ち出して参加者に考えてもらうことが多くなりました。過去にお客様と接する第一線の仕事を長年やっていましたので、そこでいろんな知恵をいただき、自分なりに咀嚼してきましたが人に披露するような機会はあまりないものでした。

ところが複数の大学院でPMを教えるようになると、ステークホルダー・マネジメントの経験談をたくさん聞きたいというフィードバックが多いのに気付きました。そこでそういう知恵をネタにいれることがだんだん増えて来ました。もちろんやりすぎると、「年寄りの自慢話」として嫌われることは間違いないですから、ほどほどにはしています。そういう中から「顧客へのペネトレーション」、とくにお客様の上層部をどうやって味方につけるかという点のLessons Learnedです。

SE時代に色んなお客様のシステム構築プロジェクトをやっていました。相当昔ですし地方でしたから、SEは珍しいしお客様チームの中のリーダー的存在でした。しかし、一介の若僧の言うことが、お客様の中の関連部門長などに簡単に受け入れてもらえるわけではありません。もし聞いてもらえないとプロジェクトが失敗するというような場面も何度も起きます。そこで、お客様のキーマンやトップを味方につける必要がどうしてもあったものです。

そしてお客様トップとの定期的会合をどこでもお願いするようになりました。そんな機会で某社にお伺いしたある日のこと、K社長が「今日は相談があるのでお酒でも」とのこと。社長車でフグ料理屋につれていかれました。地元の名士ですから料理屋のご主人の対応はこの上なく丁寧です。トイレをお借りしご主人に「大ごちそうになりどうしたものか」と聞いたら、即座に耳打ちしてくれました。「お客さんは若いのだから偉い人には素直にごちそうになるもので、決して払ってはいけません。借りを返すような良いお仕事をしてください」。

そう言われて気付きました。当然ながら20代の若僧がお支払できるようなお店ではありません。借りを作ったのですが、K社長には「貸しは仕事で返してくれる相手だろう」という期待があるのです。期待に応えられるように頑張っていると、その後K社長に奢られる機会はどんどん増えました。それにしたがって、組織では自然な現象ですが、お客様の上層部の方々の多くが私の意見に従ってくれるようになったのです。

このことは他のお客様でも同じです。社長に限らずお客様の目上の方と接する場合には、そのような借りを作ることです。地方赴任から戻り大企業を担当した際でも同じことが起きました。この原理は、時代を経ても他の国であっても同じだと思います。割り勘などしてはいけません。若い人たちにこれを得意になって話したその夜のこと、私はすっかり奢らされてしまいました。

運動部で学んだこと

 自身が物事に取組む姿勢を学んだのは、大学で所属したスキークラブにあると思っています。当時すでに創立35年を超えていたそのクラブでは何事にも真剣に取り組む姿勢が文化として確立されていました。オフシーズンは陸上トレーニングを十分に行い、大会に向けて冬は1か月に及ぶ長期合宿を行います。合宿では上級生の指導のもと、朝から夕方まで毎日練習に励みます。上下関係がしっかりしており、食事の準備や洗濯は下級生が行います。下級生は先輩を起こし早朝から全員で体操をします。下級生は部員を喜ばせるため、様々なコスチュームでスキーをしたり毎晩芸を披露したり、合宿を盛り上げることも求められます。ここでは書けない類のイベントも色々とありました。今の時代にはそぐわない部分もあるかもしれませんが、メンバーの結束は今でも固く、物事に取り組む姿勢を学んだ一番の良い経験でした。

 仕事も遊びも真面目に取り組む姿勢は今も大切にしています。能動的な姿勢で物事にあたることは、自分自身にとって気持ちの良いものです。仕事もプライベートも予定の多い状態のほうが充実した気分を味わえます。受身の姿勢よりまずは積極的に何でもやってみる姿勢のほうが、お客様からも仲間からも良い印象を持たれることが多いです。意外なことですが忙しくて大変な時ほど、同時に複数の成果が上げることが多い気がします。これまでの自身の経験からも、自分から能動的に動くことでチャンスが回ってくるものと思っています。

 大学卒業後、スキークラブの仲間達とは毎年夏に1泊2日の旅行をしています。海で子供達と遊んだり、バーベキューや花火をしたりすることは、1年を通じて最も楽しみなイベントの1つになっています。この集まりは彼是10数年も続いており、これからも続いていくことでしょう。

異動・転職は戦略的に

異動や転職など所属組織が変わることは人生において、大きな節目だと思います。私も過去に上司や人事部に相談し、異動させていただいたことが何回かあります。最も記憶に残っているのは、入社後6年目を迎えたときのことです。入社後ずっと同じチームに所属しており、責任ある仕事を任せていただいていました。居心地は良かったものの、この広い世の中でもっと色々な経験が必要なのではないかと迷いも生じていました。結果として異動をさせていただくことになりました。会社こそ変わっていないもの、その後も複数の部署や業務を経験して今に至っています。 

複数の異動の経験について、私は良かったと思っています。ただ、決して平坦な道のりではありませんでした。業務や環境が新しくなることで最も苦労することは、アウトプットが出せるまで時間を要することです。同じ業務や環境が長いほど、特に感じると思います。人間関係もゼロから作り直す必要があります。軌道に乗るまでのこの期間はなかなか辛いものです。

私は異動により自分の力不足を痛感しました。組織に縛られない専門性やスキルセットを身につけておく必要性について、身を持って感じました。つまりプロフェッショナルとして自立しないといけないということです。このことに気づけたことは良かったと思います。その後も複数の環境に身を置くことで、環境が変わっても生きていける強さが少しずつ養われた気がします。人間は環境が変わると活性化します。複数の業務や環境を経験することで、適性や活躍できる領域に改めて気づけるかもしれません。近年は新入社員を数年以内に必ずローテーションさせる企業も増えてきているようです。

社会人経験が少ないうちは全く業務が異なる職種や組織への異動も良い経験になると思います。年次があがると即戦力としてのアウトプットが求められます。よって、ある程度の年次を過ぎた後は過去の経験が繋がった異動が有利だと思います。注意点として、組織が異動先を決めるときには、各人の希望やキャリアを一番に考えてくれるわけではありません。人が足りないところへの配置が優先になります。専門分野や過去の経験がつながらない場合もあります。また、異動は半年から1年で繰り返すものではなく、数年に一度のものと思います。異動においては、可能であれば関係者に根回しを行い、一定のリスクは覚悟のうえで、慎重に戦略的に行う必要があるでしょう。一方、想定外の異動が思わぬチャンスをもたらすこともあるかもしれません。

特定分野をずっと続けたいのか、色々とチャレンジしていきたいのか二つの考えに優劣はありません。仕事人生を大きな視点で捉え、現在の業務や立場をどの位の期間続けたほうが良いか、次に必要な経験は何か、戦略的に組み立てたいものです。キャリアに正解はありません。自分で正解を導き出すしかないのです。

パーソナルPM忍法帖

「パーソナル・プロジェクトマネジメント」は個人のプロジェクトマネジメントのこと。日本生まれで2005年ぐらいからまとめられてきて、その知識を整理するパーソナルPMフレームワークも整ってきました。普通のPMでいえば知識体系の目次。このBlogでもそのうちにご紹介したいと思いますが、お急ぎの方の参考書は日経BP社の「パーソナルプロジェクトマネジメント」です。

パーソナルプロジェクトマネジメントの研究は日本で2004年以前から始まり、個別の情報発信が始まりました。2007年4月には「パーソナルPM研究会」がPM学会内に作られ、継続的な追究が開始され研究が加速されました。そして2014年5月には、ご関心をもたれた関係各位のご努力により、自由な追究・実践のための「パーソナルPMコミュニティ」が学会外に誕生しました。いっぽうパーソナルPM研究会の2016年3月完了に伴い、以後この開かれたコミュニティ活動(参照:PPMcommunity-TsCs-01)へと活動が統合され、現在に至っています。つまり「分身の術」と「合体の術」を重ねたものです。

本ブログはワールドクラフト様のお世話になりながら掲載させていただいています。当面はLessons learned(教訓)をメンバーが忍法のようにあれこれ書いて行く筈です。ご関心をお持ちの方のお役に立つように、一同頑張りたいと思います。・・と述べる筆者本人は、ゆっくりのペースで書くことになると思います。事情で暫らくの間、時間が拘束されているためですが。しかしそういうことは理由になりにくいものですね(^_^: 書いてしまってから反省しきりです。

2015.3.6

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LL投稿開始

サイトは未完成ですが、投稿を開始して編集を始めて頂いて大丈夫です。