あわてず、騒がず、落ち着いて

初めて中国へ行った時、民族間の感覚の違いを経験しました。

海外旅行におけるリスク対応策として、「生水を飲まない」、「旅行先の気温を調べその季節の平均気温の高め低めを調節できる上着を持っていく」、「夜間の一人歩きはしない」ようにしています。食べ物が口に合わず、腹痛を起こした場合の頓服や頭痛・腰痛のための鎮痛剤、そして靴擦れのための傷テープを持っていくことも筆者のリスク対応策です。

これらが海外旅行の時の心得でもあり、想定されるリスクの予防策だと信じていました。ところが数年前に初めて中国へ行った時、予想を裏切られることが起こってしまいました。筆者の想定が甘かったのです。

漠然と中国の歴史や文化を学んだつもりであっても、その国土の広さの違いから距離に対する感覚が違うことを全く認識していませんでした。

中国という広大な国土の中で育った人と、日本のように車で1,2時間移動すれば、山が見えたり海が見えたりする狭い国土に育った人では、生活する上で距離感と時間感覚が異なってくるようです。

浙江省杭州市を観光したときのことです。杭州市の西側にある世界遺産「西湖」を遊覧船に乗って湖を周りました。「西湖」は山梨県の河口湖ほどの大きさの人造湖です。遊覧船を降りた後、案内役のSさんから「ちょっと西湖のほとりを歩きましょうか」と言われ、西湖の蘇堤を案内していただきました。その「ちょっと・・・」というあいまいな表現が筆者とSさんとの間で受けとめ方に違いがあったのです。

筆者の中で「ちょっと・・・」はブラブラ歩き、5,6分の散歩という認識でした。歩き始めて5,6分経った頃、「あのう、まだですか?」とたずねました。Sさんはそんな筆者にあきれて「まだ1つ目の橋を越えたばかりですからあと5つの橋を渡りますよ」と笑いながら答えます。

あとから知ったのですが、白堤と呼ばれる蘇堤には6つの橋がかかっており全長2.8kmの道になっているそうです。この6つの橋は錦帯橋と言われる美しい円弧の橋で、岩国市の錦帯橋はこれを模倣したそうです。

この数字だけを耳にすると「たった2.8kmか」と思われると思いますが、スニーカーではなくパンプスで30~40分歩くのはちょっと大変でした。先に聞いていれば次の目的地への移動は遠回りをしてもバスを使ったと思います。

心の中で「6つの橋なんて聞いていないのに」と、ぼやきながら橋の数をかぞえました。もちろん景色は素晴らしいので気は紛れましたが、足の痛みは治りません。途中、靴を脱いでみると足の小指と親指の付け根に血豆ができ、用意した傷テープでは間に合いません。白堤のゴールではその血豆が破れてしまいました。

次の観光目的の六和塔(ろくわとう)を眺めた時、折角きたのですから上まで上がりたいと思いました。六和塔は高さが60メートルあり、外見は十三重の塔に見えます。塔の上に行くには階段を使って自分の足で上がるしかなく、お土産店で歩きやすい靴を買い求めました。観光地で靴が販売されていたのは驚きでしたが、大変助かりました。

その靴のお蔭で一番上迄上がることができました。

それ以後、海外旅行だけでなく国内の旅行であっても歩きやすい靴を持っていくようにしています。

そして旅行先の地域を調査し「この対策で十分か」と常に考えることにしています。

「想定されるリスク」は経験があって初めて想定可能であり、価値判断や感覚の相違などは想定できないということがわかりました。全く経験のない国へ行く場合、その国の情報を入手してよく分析しておけば、「想定されるリスク」については対策を準備できると思います。みなさんもさらに想定外をなくすよう想定してみませんか。進行を想像し、予定していない事象をその性質別に識別しましょう。想定することにより、あわてず、騒がず、落ち着いて行動することができます。

 

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