この会場に通って今日で3日目です。前日と同じようにタクシーに乗り込み駅まで行きました。駅に着いたのは夕方の5時半過ぎでした。ここからホテルまでは列車に乗って1時間半ほどかかります。この会場での仕事も最後なので駅前で食事がてら軽く飲んでいこうということになりました。駅傍のビヤホールのドアをあけ、地ビールとソーセージの盛り合わせを注文しました。今回の出張のメインの仕事を終えたということで緊張感からも解放され実にうまいビールでした。当然ですが、そのあとに起きることは想像にもしていない二人でした。駅に入り、私たちの乗る電車が10番線から10分後に発車する事を掲示板で確認しました。階段を下りて、そのホームに着くと既に列車は入線していました。たしか真ん中あたりの車両に乗りんだと思います。これから1時間余りの列車の旅です。仕事が終わりおいしいビールを飲んだ私たちは、あしたのスケジュールというか、仕事が終わってからの夜の計画を話し始めました。しばらくすると、同じホームの反対側の番線に列車が入線してきました。私たちは特に気にも留めず、明日の晩はどこに行こうかという話にはずんでいました。そして、列車が発車しました。ここは、ドイツのハノーバ駅のホームです。私たちはハノーバメッセの視察という目的で出張に来ていました。メッセの視察は3日間でその日が最終日でした。今回の出張の楽しみは4日目以降でした。そうです明日からはパリです。当時会社が新しいサービスを模索していた関係でフランスの通信会社が始めたODVのサービスの調査をすることにしていました。なぜ、今列車に乗っているかというと、メッセが開催されるこの時期はハノーバ市内のホテルはまったく予約がとれなません。また相当な金を払わないと泊まれません。そのような必然的な理由で、私たちはハノーバーからICE(Intercity-Express)いわゆる特急で1時間半近くかかるハンブルグ中央駅のそばのホテルに宿泊していました。東京に泊まって名古屋まで新幹線で3日間通ったようなものです。
話は戻りますが、そうこうしているうちに、私たちを乗せた列車が発車しました。私たちは、4人がけのボックスシートに陣取りました。ドイツの列車には、ボックスの中央に設置されたテーブルにその列車の時刻表が置いてあります。つまり、その列車の停車駅と時間等が記載されている固有の時刻表が印刷物で用意され、それが座席ごとに置かれているわけです。初日に乗ったときは随分ときめ細かなやり方だと思いましたが、初めてでも何時にどこに着くのか理解できるのでとても良いサービスだと思いました。さて、ハンブルグ到着時間は何時になるか、確認しようと時刻表を見ました。表記はドイツ語と英語です。駅名と時間だけですから誰でもわかります。その時に,初めて何が起きたか理解しました。時刻表にHanburgという単語が見当たらないのです。目に飛び込んできたのはBerlinという単語でした。どうも私たちは電車を乗り間違えたらしいのです。ハノーバ駅でしっかり確認したはずなのに・・・と私は思いました。でも、よくよく考えてみると、1つのホームには両側に番線があります。例えば1番線と2番線は同じホームです。列車に乗り込むときに本当に10番線だと確認したのか、9番線ではなかったのか、でも二人とも迷うことなくこの列車に乗り込んでしまったではないか?そしてその時には全く気にも留めなかった反対側の番線に入ってきた列車が私たちが乗るべきHanbugに連れ帰ってくれる列車であると、理解したわけです。
ちなみにハンブルグはハノーバの北方向約180km、ベルリンはハノーバの東方向約300km。
方角を時計の針で表現することがありますが12時の方角に帰るつもりが3時の方角に歩いていた、というようなことです。しかもこの列車はICE(日本の新幹線のようなものなので)次の停車駅はまではあと40分。ということが時刻表から読み取れました。
さて、LLの話に移りますが、この失敗の理由は、“思い込み”でした。
ホームに来るまでは何も間違いはなかったのです。その列車内での反省会の結論は、二人とも確たる根拠もなく停車中の列車を、ハンブルグ行だと思い込んでしまったということしたで。相棒の言い分は、「だってTさんが自信ありげに迷いもなく乗り込んだので、私はついてきただけですよ」そして私の言い分「だって君が確認したかのように、この列車に乗ろうとしているようだったので乗っただけだよ」つまりお互いにお互いを信じて、迷うことなくハンブルグ行だと確信していたという、ダブルの思い込みの結末でした。
私はこの列車乗り間違えの失敗経験からいくつかの教訓を学びました。
【教訓1】「思い込みは人を誤った道に進める落とし穴である。」
これは、仕事の中でもプライベートの人間関係などでもよく経験することです間違った思い込みは、必ず、失敗の原因となります。大事な友達を誤解という思い込みで失った人もいます。たとえ確認することが難しい場合でも勇気をもって確認しましょう
【教訓2】「大事なことは他人に頼るな、自分の目、自分の耳で確認せよ」
プロジェクトマネジメントにも通じる教訓です。他人の報告や、不確かな情報だけで重要な判断をしないようにということですね。
【教訓3】「赤信号みんなで渡れば怖くない」はとても危険」
人は皆で同じ行動をしている時に何も考えなくなることがあります。気も大きくなります。そして物事の善悪がつかなくなる場合もありますね。しかし、赤信号をみんなで渡れば恐怖心はないかもしれませんが、違反です。危険です。トラックが突っ込んできても言い訳できませんし、場合によっては命を落としかねない悲惨な結果になります。今回も、もしも、一人で来ていたら番線をきちんと確認するなり、乗り込む前に列車の行先を確認し列車を乗り間違えることはなかったでしょう。二人という状況がこのような思い込みと安心感を生み出したのかもしれません。
さて、乗り間違えに気づいてからの顛末は・・・・・
私たちは本当にこの列車がハンブルグには行かないのか、まず車掌さんを探しました。ちょうど検札にきた若い車掌さんに聞いたところ、英語が全く通じずさっさと行ってしまいました(ドイツでは若者は皆英語が話せると聞いていたのですが、これも間違った情報だったようです)。彼はしばらくして英語の解る別の車掌を連れてきました。しばらく話しをするうちに私たちの一縷の望みは消えてしまいました。やはりこの列車はベルリン行でした。そして、次の停車駅まではあと30分余りかかること、次の停車駅で降りてハノーバまで戻り、ハンブルグ行の列車に乗り換えるしかないということ、そして次の停車駅からハノーバ行の列車が何時でるのかはその場ではわからないこと、を私たちは理解しました。しばらくして停車した駅はICEが停まるにしてはやけにさびしい、薄暗い周りが野原のような印象でした。駅員を探してハノーバ行の電車の発車時刻を聞くと、あと1時間くらい後だと告げられました。やっと乗ることができたハノーバ行の列車はいわゆる普通列車でした。車内もなんとなく汚れていて、ハノーバまで何駅か停まり2時間近くの時間がかかりました。そこからしばらく待ってやっとハンブルグ行のICEに乗ることができました。結局ホテルに着いたのは12時近くでしたが、一応その日のうちにリカバリーできたということで、明日のパリの夜を思いながら二人で祝杯をあげた次第です。
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