窮すれば通ず。あきらめずに頭を使え

今から、25年くらい前の話です。その日は、朝から胸騒ぎがして、胸に何かつっかえたような気分でした。でもその理由がわからないうちに、会社に行く時間になり、とりあえず家をでました。会社に着いて、いつも通りまずコーヒーを一杯注いで、それをもってたばこ部屋に行きました。一服しながらいつもの朝の常連と雑談をし、その日の仕事の段取りを頭の中で組立てました。
席にもどりメールの確認を始めた矢先、電話が鳴りました。上司のA部長からでした。「あの件はどうなったのか」第一声です。A部長には大小取り混ぜて色々な宿題をもらっていましたので一瞬どの案件か戸惑いましたが、たぶん、ABC社との共同開発に関する覚書の締結の件であると気づき、「その件はN担当部長に任せています。確か一昨日、先方と最終確認を完了した旨報告を受けています。こちらの希望条件で進んでいます。詳細はあとで、メールで報告しますが・・・」と私。
「実は、それはそれで進めてもらってもいいのだが、実は、先方の・・・・・・ということなので、至急に、教えてほしいのだが、今 N担当部長はいるかね。私のところに今すぐよこしてほしいが・・」とA部長。あたりを見回すとN部長は見当たりません。彼の部下に聞いたところ「N部長は年休で休んでいいます」との返事。それならばと、彼の自宅に電話しました。しかし奥様から聞いた次の言葉で、私は、万事窮すとなってしまいました。「主人は、本日、大学時代の後輩の結婚式で朝一番に、広島に出かけました。・・・・特に指定券はとっていなかったようですので・・式場はXXXXですが、確か開始時間は、午後の3時からといっておりました。式場の電話番号は・・・」
今ならば、携帯電話で連絡がすぐに取れるので、何も問題がありません。直接電話すれば済む話です。しかし四半世紀も昔の当時はそれは夢物語。どうやって彼を捕まえて、聞き出すのか、式場に連絡して連絡を待つしかないのか、でも、それでは間に合わない。どうしようか・・何か手段はないのか・・・お手上げなのか・・・朝の胸騒ぎの理由はこれだったのかと、一人で納得してしまいました。
しかし、これで終わりではないと、もう一度、N部長の自宅に電話しました。何とか連絡を取りたいという思いでした。奥様から自宅を出た時間と、解る範囲での行動予定を教えてもらいました。結局わかったことは、朝の8時半ごろに自宅を出たということだけでした。電話を切ってから私は総務からJRの時刻表を借りてきました。そして新幹線のページをめくり新横浜と東京発の新幹線の時間を調べました。私の作戦は、新幹線の車内呼び出しを利用することでした。まず彼の自宅からの最寄駅である新横浜と、東京駅までのどのくらいかかるのかを推定しました。広島まで行くには横浜に止まらない東京駅から乗車した可能性もあるからです。そしてそれぞれの駅から彼が乗車した可能性のある列車の候補を選びだしました。そこまで準備してからJR東京駅に電話をし予めメモッタ列車番号に対して呼び出お願いしました。最初は1本しか受けてくれない雰囲気でしたが、しぶしぶた複数の列車で車内放送してもらえることになりました。なお、会社名は車内放送できないということで「ZZ市XX町のNさん、至急会社にお電話ください」となりました。。それから10分も立たないうちに、自席の電話のベルが鳴った、東京駅発の新幹線からNさんがかけてきた電話でした。彼の開口一番の言葉は次の言葉でした「なぜ、私がこの電車に乗っていることが分かったのですか。妻にも告げていないし・・・」。 途切れがちの電話でしたが、要件を手短に伝え、必要な情報を教えてもらうことが出来ました。

この出来事自体は些細な事件かもしれません。連絡が取れないと思った瞬間に諦めてしまうこともできましたしそれで許されたと思います。たまたま、車内呼び出しを思いついたからでLLでもなんでもないと思う人もいると思います。しかし私がこの事件で学んだことはその後、私を何度も窮地から救ってくれました。「窮すれば通ず。あきらめずに頭を使えばなんとかうまくいく」と。

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